山田 貴仁(やまだ たかひと
半屋外、緑豊かな内装と、南国の気候を活かしたトロピカルな作品が特徴の建築設計事務所「スタジオ・アネッタイ/studio anettai」。ベトナムの施工業者と手を取り合い、建築から3D制作まで幅広く手がける同社代表の山田貴仁さんに、ベトナムとの関わりを尋ねた。
Japanese
半屋外、緑豊かな内装と、南国の気候を活かしたトロピカルな作品が特徴の建築設計事務所「スタジオ・アネッタイ/studio anettai」。ベトナムの施工業者と手を取り合い、建築から3D制作まで幅広く手がける同社代表の山田貴仁さんに、ベトナムとの関わりを尋ねた。
インターンで訪れた会社に就職
現地ならではの慣習に驚き
「大学院の研究室が各国のコンバージョン(建物の用途の変更を伴うリノベーション)を研究するところで、しばしばタイなど東南アジアの国々へ調査旅行に行っていました。そのため漠然と東南アジアに惹かれていたのですが、ベトナムへ来ることになったのは、在学中に学校へベトナムの建築事務所から人員の募集があり、応募したのがきっかけです。まずはインターンから始め、卒業後に正式に就職し戻ってきました」
設計事務所では数年働いた後に卒業し、転職や独立をする人が多い。山田さんも約5年の勤務の後、独立。日本へ帰国する道もあったが、退職時に仕事の引き合いがあったため、ベトナムで設計を続ける選択をとった。
「2019年当時、ベトナムには既に複数の日本人建築家がひしめき合っており、そのまま普通に設計を続けても面白みがないと強く感じました。そこで建築に近しい領域である不動産経営やホステルの設立に挑戦しました。その際に立ち上げたのが今の会社です」
現在は設計や3Dパースの業務を軸に、住宅からレストラン、オフィスやクラブ、美術館など、多種多様なジャンルを手がけている。クライアントは日系企業だけでなく、ベトナム企業も多い。
「業務を通じて日本と大きく違いを感じるのは、まず作り始めること。最初にデザインを決め切らず、ある程度の図面を基に修正しながら走り切る途上国ならではのスピード感は、実はクリエイティブとの相性が極めて良いと感じています。トラブルを回避することを目的とせず、その都度対応する柔軟なやり方は驚きとともに学ぶことばかりです。」
一見ゆるさを感じるかもしれないが、その分完成までの速度が速いなどのメリットもある。また、不具合が発生した場合も施工現場が修正に馴れているため焦ることがなく、「それならこうすれば良い」と気づかせてくれることも多いという。
現地企業と共に歩む
今では頼りになるパートナーも
とはいえ、いざ業務が始まると、言語や習慣の違いから誤解や衝突が生まれることもある。そのため建築家と現場の職人との間には、円滑なコミュニケ—ションが不可欠だ。
「私はベトナムの人々、現地企業と共生していきたい。だからこそ言葉の問題だけでなく、施主が求めるクオリティを理解しながら、それをベトナムの職人の世界にもきちんと指示できる。そんな調停役が本当に大切であり、そういった存在に我々建築家もなるべきだと思っています」
幸い、前職から関わりのある同年代のベトナム人が独立、国際的な感覚を持ちながら現地の習慣にも長けた施工会社を立ち上げるなど、最近は気の合う頼りがいのあるパートナーも増えてきたという。
「日本とベトナム、建築家と職人など、どちらが上でどちらが下ということはありません。同じ平面上でお互いに近づき理解し合う関係が一番。そのすり合わせをしてくれる優秀なパートナーに、私達も教育してもらっている感じです。また、ベトナムには失敗しながら走るという感覚も教えられました。コロナの影響から民泊もホステルも無くなってしまったのですが、経験として今はやって良かったと思っています。選んだ選択肢は自分の中でむりやりにでも正解にすればいい。ベトナムでの活動に本当に後悔はありません。そんな考え方をベトナムは教えてくれましたね」
現地の新鋭建築家に興味津々
互いに刺激し合える関係を作りたい
「ベトナム、特にホーチミン市では今、若い世代の建築家が増え、中には世界的な賞を取る人もでてきています。そんな彼らから学ばず、共生しないのは本当に勿体ない。ぜひコラボもできればと思っています」
しかし、残念なこともある。ベトナムには設計者、特に意匠設計者(デザイナー)の数自体が少なく、設計者同士が議論したりする場もほとんどないのが実状だ。
「ベトナムのデザイナーが日本へ行ったり、日本の設計事務所がベトナムでワークショップを開いたり。建築に関する技術や情熱がある彼らは必ず何かを吸収してベトナムに良いデザインをもたらしてくれるはずです。インターネットを活用しオンラインで建築を学ぶことも良いですが、一方でオフラインでの関わりの大切さをひしひしと感じています。ゲリラ的にでもいいし、政府間のサポートが入った公的なイベントでもいい。ニッチな分野ではありますが、今後はそうした機会も増えていけば、そして自分でも創り出していければと考えています」
1988年東京生まれ。2014年に首都大学東京(現東京都立大学)大学院を卒業し、渡越。「ヴォー・チョン・ギア・アーキテクツ/Vo Trong Nghia Architects」での勤務を経て、2019年に建築設計事務所「スタジオ・アネッタイ/studio anettai」を設立する。 |
画家
VTV4日本語番組編集者・アナウンサー
ブロガー/「ベトナムリアルガイド」運営