チャン・トゥー・チャン
幼い頃から日本に憧れを持ち日本の文部科学省の奨学生として来日したチャン・トゥー・チャンさん。学生時代はベトナムを多くの日本人に紹介したいという思いから様々な活動に参加。現在はベトナムに支店を持つ日本の製薬会社に勤務し、ベトナムの人々に多くの特効薬を届けることに貢献している。
Japanese
幼い頃から日本に憧れを持ち日本の文部科学省の奨学生として来日したチャン・トゥー・チャンさん。学生時代はベトナムを多くの日本人に紹介したいという思いから様々な活動に参加。現在はベトナムに支店を持つ日本の製薬会社に勤務し、ベトナムの人々に多くの特効薬を届けることに貢献している。
留学直前に東日本大震災が発生
「あきらめずに留学して良かった」
「高品質な商品」、「経済発展とともに、伝統文化や価値観を大切にする国」。これがチャンさんが幼い頃から日本に対して抱いていた印象だ。ハノイ貿易大学では日本語を勉強しつつ、現役を引退した日本人によるボランティア組織「アジアの新しい風」に参加。日本語の練習として、日本人会員は日本語学習者とペアを組むアイ(I)メイトとなり、主に電子メールのやり取りで交流する。チャンさんのIメイトは、会の創設者の日本人だった。
2011年4月に日本の文部科学省の奨学生として東京外国語大学日本語教育センターに留学する直前の2011年3月、日本で東日本大震災が発生。心配した家族から留学を取りやめるように言われたが、日本留学をあきらめたくなかったチャンさんは、Iメイトに相談。「安心して日本へ行きなさい」との心強い言葉に励まされて、来日を果たした。
「あの時に留学をあきらめなくて、本当によかったと思っています。きっと今のような貴重な経験や仕事での成功もなかったでしょうから」
当時、ハノイ貿易大学の日本語クラブは、学生たちに鶴を折って被災者のために祈るよう呼びかけていた。チャンさんは千羽以上の折り鶴が入った箱を託され、2011年6月に岩手県大槌町の小学校に寄贈した。
「折り鶴を通して、ベトナム人のお見舞いと復興を願う気持ちを伝えたかったのです」
その後、京都大学に入学したチャンさんは、京都で学ぶ留学生などによる「国際理解プログラム」(PICNIK)に参加。市内の小・中学校の授業にゲストとして参加し、母国の文化を生徒たちへ紹介する活動を行うものだ。チャンさんは食べ物、テトの行事、お祭り、気候など、ベトナムの基本的なことを紹介した。
「日本の生徒たちがベトナムを知ることで、ポジティブな印象を持ってもらえる良い機会だと思います。実際に『ベトナムに行ってみたい』と言ってくれるなど、とても興味を示してくれました」
生徒たちからプレゼントされたコメント入りのアルバムは、今でも大切な思い出として大事に保管している。
日本で製薬会社に就職
仕事における公平な評価
大学卒業後は日本とベトナムの経済に貢献したいと考えたチャンさんは、ベトナム支社をもつ「アステラス製薬」に入社。現在、経営戦略部の一員として、製薬の開発戦略の策定などに関わっている。
「医学の専門ではありませんが、患者さんに薬が届くまでの過程に貢献できることは、とても有意義です」
2021年からは2年間の予定でシンガポール支社に駐在した。
「会社の使命を託されて海外駐在となることは、日本人にとっても大変名誉なことです。自分が駐在員に選ばれて、日本人はとても公平だと思いました。国籍を問わず、能力があれば、同じようにチャンスを与えてくれるからです」
日本での生活を通して、チャンさんは規律性、細部への配慮、退職後の考え方なども学んだ。
「かつては『定年退職』とは仕事を辞めて休養し、旅行なども楽しみながら、子どもや孫と幸せに暮らすものだと思っていました。でも『アジアの新しい風』の日本人の方々と出会って考えが変わりました。定年退職しても、多くの活動に積極的に参加し、若者たちの目標達成を手助けするなどができるとわかりました」
経済から文化まで
より活発な交流を期待
チャンさんは、ベトナムと日本の経済関係を非常に良好だと認識している。例えば、日本はベトナムに対して技術協力と資金協力を組み合わせたODA事業を多く行い、ベトナムは研修生や技能実習生から知識労働者まで、日本に幅広い労働資源を提供していることだ。
「経済面だけでなく、文化や社会においても関係性が広がっていければ。日本の魅力を知り、勉強や仕事で来日するベトナム人が増え、ベトナムの良さを知り、旅行や仕事だけでなく、長期滞在のためにべトナムにやってくる日本人が増えていくのが望ましいと思っています。文化交流と言えば、国際交流基金を筆頭に、様々な活動が既に実施されています。これからもより良い交流が続けられることを願っています」
もちろん医薬分野においても、一層の発展を願う。
「ベトナムは、日本をはじめとする海外の製薬会社との更なる連携が必要だと思います。そうすることで、ベトナムの人々にとって最新の医薬品が身近なものとなり、健康の増進を推進し、さまざまな病気の治療と克服ができるようになりますから」
2009年にハノイ貿易大学国際経済学部に入学。在学中に日本の文部科学省の奨学生として東京外国語大学と京都大学経営学部に留学。2016年に「アステラス製薬/Astellas Pharma」に入社し、現在は経営戦略部の一員として、製薬の開発戦略の策定などを担当している。 |
画家
VTV4日本語番組編集者・アナウンサー
ブロガー/「ベトナムリアルガイド」運営