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大切なのは相手の立場や気持ちへの思いやり
覚悟をもってベトナム人を一人前に育て上げたい

青野 茂和(せいの しげかず)
祥設計/専務取締役、
設備設計一級建築士

青野 茂和(せいの しげかず)

建築物の設備設計を専門として活躍してきた青野茂和さんは、「思い立ったら即行動」の人。大手設計事務所での経験を皮切りに実績を重ね、持ち前の決断力と行動力で富山から東京、ベトナム、カンボジアと拠点を拡げてきた。各国を行き来する中、それぞれの拠点を管理できているのは、関わる人々と正面から向き合う姿勢にあった。

やる気とガッツのあるベトナム人を
時間をかけて丁寧に育てる

設備設計の専門家として、日本、ベトナム、カンボジアを飛び回る青野さん。大手設計会社で病院や福祉施設の設備設計を手掛け、その後は「使う側の思いを理解した設計がしたい」と、病院で増築や改修工事など現場寄りの経験を積んできた。

同時に経営を学ぶために参加した日本青年会議所(JCI)のイベントで、初めてベトナムを訪れた。父親が東南アジアに長く暮らしていたことから、抵抗感はとくになかったと話す。

「ベトナムだったのは、たまたまです。当時も若い人が多くて活気がありました。それに日本の建物はリノベーションが多いのですが、ここは新築の建物が多いのも印象的でした」

実際に現地を見た後、どうやったらベトナムの人と接点が取れるかを考えた青野さんは、自社の関東事務所でベトナム人のアルバイトを採用しつつ、同時にホーチミン市を行き来しはじめる。ホーチミン市建築大学を直接訪れてアルバイトを採用し、日本の改修案件の図面をCAD(Computer-Aided Design/コンピューター支援設計ツール)でトレースする作業などをしてもらいながらベトナムでの展開を模索していった。

「ダナンでは、知り合ったベトナム人社長が経営する地場のCAD専門会社に仕事を委託したこともあります。現地相場に比較すると高い委託料を払っていたのですが、委託だと現場の担当者が変わってしまうため成果物が安定しません。この仕事は10年くらいの経験を積んで一人前になる仕事なんです。そこで法人を立ち上げて、人材を育てていくことにしました」

まずはホーチミン市に法人を設立したが、スタッフに中部出身者が多かったためダナンに移転。今はメコンデルタのベンチェーや、中部のクアンチにも展開し、さらにカンボジア・プノンペンにも拠点を構えている。

こちらが誠意を見せないと、
相手からの誠意もない

ベトナム人を育てるにあたっては様々な苦労と、それ以上の学びがあった。

「最初は間違いだらけで使えなくて、自分でやり直しながら、進出がよかったのかを疑問に思ったときもありました。でも、教育は学ぶ側の意欲によります。できる人が1人いれば、その人に徹底的に教えることで、他のメンバーにも知識が横展開してみんなと共有されます。ベトナムの強いところだと思いますね」
組織作りにおいても、少し背伸びをしたポジションに人を配置している。

「タスクだけをさせていても将来はありません。ベトナムの力はこれからもっと伸びます。一人前になるまで育て、できればマネジメントができるようになってほしいという思いでやっているんです。ミスがあっても、きちんと振り返ればいい。ミスをすればするほど良くなると考えています」

ベトナムに本格的に関わるようになってから、青野さんはベトナム語の勉強に着手した。ベトナム語関連の書籍を10冊ほど購入して音読を繰り返し、その後はベトナム語だけで生活するなどして習得していった。
「現地で仕事をするうえで、ベトナム語ができるかどうかは大切です。つたなくてもベトナム語で伝えると共感してもらえますし、親近感をもってもらえます」

主な仕事は日本の案件なため、「約束をまもる」、「報告をする」、「相手の立場にたって考える」といった日本の習慣・文化は丁寧に伝えている。

「仕事にしても、文化の違いにしても、こちらからまず誠意を見せないと相手からの誠意もありません。そこをとにかく丁寧にやっています。設計の仕事は知識をずっと重ね続けて、やっとものになる。現地スタッフにただ作業をさせている、という感覚ではないですね。」

会社としての次のステップは、現地で設計の仕事を獲得することだ。日本の設計図を作るだけでなく、現地の仕事を現地でやってもらいたいという思いがある。社員には4~5年先のビジョンを伝えて、方向性を明確にすることを大切にしている。

「自分の夢をみんなで共有して、それをみんなで実現しようというのがいいですよね。できるだけ新しいことを教えて、続けてもらえるように信頼されるようにがんばっています」

日本の労働力の確保だけでなく、
ベトナム人の技術の確保を

一人ひとりと向き合いながら日本とベトナムで仕事をする中、日越関係において現行の技能実習制度には改善の余地があると見ている。

「現状は日本の労働力の確保という面が大きくて、ベトナム人実習生たちの技術の向上、人生における仕事の位置づけが重視されていないように感じます。日本で実習したことがベトナムで生かせていない問題もあります。日本がベトナムに技術に関わる知識を共有していけば、ベトナムのレベルも上がり産業も底上げされていくはずです」

仏教徒でもある青野さんは、「自利利他」を常に大切にしている。

「実習生たちの立場に立って、彼らがどれだけ技術を吸収するかを考えてあげることで、はじめて自分に返ってきます。相手を思っての技術伝承が大切だと思うのです。何事も『日本とベトナム』ではなく、結局は一対一。『私とあなた』の関係において、国という障壁を取っ払い、自由に交流していくことが互いの発展につながるのだと考えます」

常に相手の気持ちや立場をおもんぱかって物事を進めてきた青野さん。整然とした語り口の端々に、人への思いやりの気持ちが垣間見える。

大阪大学大学院(環境工学)修了後、日建設計に入社し、設備設計部で主に病院や福祉施設の設計に従事。医療法人真生会・真生会富山病院にて、増築棟工事、改修工事などのプロジェクトマネジャーを務めながら、一級建築士、設備設計一級建築士、建築設備士、ファシリティーマネジャーなどの資格を取得。2019年より「祥設計ベトナム/SHOU SEKKEI VIETNAM」を立ち上げ、日本、ベトナム、カンボジアで設備設計と建物維持コンサルティングを行う。

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