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ベトナムで見つけた存在意義
キャラクターを通じ喜びや幸せを届けたい

宮本 洋志(みやもと ひろし)
タガー/代表取締役・創業者

宮本 洋志(みやもと ひろし)

『ドラえもん』をはじめとする様々な日本アニメの版権管理をベトナムで手がける「タガー/TAGGER」代表の宮本洋志さん。「ベトナムの人々を喜ばせたい」、そんな想いを作品に載せ、走り続けて早14年。彼が導いた日本発のキャラクターたちは、子どもから大人まで、ベトナムの地で多くの人々に愛される人気者となった。

一目惚れから始まった事業
愛されるキャラで新たな価値や社会を作る

日本のプロ野球選手の父を持ち、自分の意思とは関係なく野球に打ち込んだ学生時代。しかし、次第に自身のアイデンティティに疑問を持ち、社会に出てからも常に「宮本洋志としてできることは何か」を探し続けていた。そんな折、知人を頼り訪れたのがベトナムだった。降り立った空港で彼を待っていたのは、親族を出迎えに来た無数の人々。衝撃が走った。

「活気溢れる現地の若い人々を前に、もしかすると私はこの人たちを喜ばせるためにこの国に来たのでは、と感じたんです」

心が騒ぐ、ベトナムへの一目惚れだった。2ヶ月後、宮本さんはベトナムへ舞い戻る。とはいえ、何をして喜ばせるのか、計画は無かった。

「当時は在住日本人数も多くなく、現地の人々にとって日本は身近な存在ではありませんでした。ただ、日本人と知ると誰もが『ホンダ!』、『アジノモト!』と声をかけてくれる。そのひとつが『ドラえもん』だったんです。キャラクターを通じてならば、名も無い個人よりもきっと多くの人に喜びを伝えられる。それが事業のきっかけになりました」

アニメのキャラクターに想いを託す。しかし、道のりは容易ではなかった。当時のベトナムでは著作権や商標がさほど認知されておらず、模倣品が市場に溢れていた。そこでキャラクターには権利があり、権利を守ることがキャラクターを愛される存在にする。ひいては多くの人に喜びを届け、企業やブランドの価値を高めると現地企業を説いて回った。

「数百社を訪問し、お話ができたのは10%ほど。ただ、その頃にドラえもんのテレビ放映が始まったこともあり、日越の大手企業に共感いただくことができました」

キャラクターを使った商品は権利料が発生するため、どうしても価格が高くなる。しかし、文房具や服飾・食品など、高品質でデザインの良い正規品は消費者の興味を引いた。

「キャラクターを使えば売れるのではなく、キャラクターを通じこんな社会を作りたいと思うことが大切。時間はかかりますが、今では共感していただける企業が徐々に増えてきています」

Give & TakeならぬGive  Given
与え与えられ、ベトナムで得た確信

「ベトナムの人々を喜ばせたい」。その活動の根底には、母親の影響がある。幼い頃は腕白でケンカもよくした。ところが相手の父兄に怒られた際、宮本さんの母親は謝罪するだけでなく、怒ってもらえたことに感謝した。嬉しいことも哀しいことも、決めるのは自分の心の持ちようと育てられた。

「人間は決して一人では生きられない。周囲の人に支えられ、感謝を忘れてはいけない。だからこそ、いつも誰かのためにできることを探していました。そんな中、あるイベント会場で1通の手紙を受け取ったんです」
差出人は小さな女の子。ベトナム語でこう綴られていた。

「今日はドラえもんに会えて嬉しかった。私もいつかドラえもんになって、お母さんや家族を助けたい」
版権事業と聞くと、再生回数や視聴率といった目に見える「効率」や「機能」といったことに注目されがちだ。だが、ファンはキャラクターから「見えない力」を感じている。便利なドラえもんが欲しいのではなく、ドラえもんになりたい。そして家族を助けたいのだ。「今までの活動は間違ってはいなかった」、そう確信した。そして、そんな想いが連鎖することで、誰もが手を取り歩んでいける優しい未来に繋がればと話す。
「手紙をもらったのは2012年頃のことですが、今も社員全員の心に残っています。活動の初心を思い出させてくれる大切な宝物ですね」

ベトナムに新たな価値をもたらせる
代名詞となるコンテンツを世界へ

『ドラえもん』や『ワンピース』、『名探偵コナン』など、名だたるエンターテインメントをベトナムの地に届けてきた宮本さん。今後は逆に、ベトナムが世界に対し胸を張れる価値も創造していきたいという。
「たとえばアニメのキャラをモチーフにしたベトナム製グッズの製造・販売を始めました。また、映画や音楽など、メイド・イン・ベトナムのコンテンツも予定しています」

渡越当初「ドラえもん!」と呼ばれたように、いずれはベトナムの呼称となるブランドを発信できればと願う。そのためには、日本から技術指導などの支援があればとも話す。

「日本アニメの制作にはベトナムの人々も加わっています。しかし、背景画など単純作業が大半。そこでアニメ専門学校などから講師を招きワークショップを開くなど、現地の漫画家やアニメーターが成長できる機会があれば良いですね」

ベトナムの成長は日本の作品作りの助けになる。ベトナムだからこそ作れる作品もある。「消費の市場だけでなく、制作側にも日本企業が参入し、助け合う関係が築ければ」という想いは強い。とはいえ、日本の役にも立つが、「基本的にベトナムのために活動をしている」と言い切る宮本さん。一目惚れから始まったベトナムへの愛は、限りなく深い。

1981年兵庫県生まれ。大学卒業後、玩具メーカーに就職。20091月に訪れたベトナム旅行で運命を感じ、同年3月に再渡越。「ドラえもん」を中心とした版権事業を開始する。2013年には「タガー/TAGGER」を設立、版権事業のほか、グッズの製造・販売、映画やテレビ放映の配給事業も行っている。

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